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・−・−・−<復刊>鈴木。点と線。−・−・−・

1 :編集人:01/12/12 05:57
なんでもありが誇る連続小説。
関西先生、もう落とさせませんからね!

>2 総集編目次

2 :編集人:01/12/12 05:57
総集編 目次

>3    作者注意コメント
>4    世界へ。
>5-9   覚醒
>10-13 彦原海子
>14-17 能力
>18-27 手紙
>28    番外編 篠原、アジアに惹かれる。(挿絵つき)
>29-38 牛田京子
>39-42 ビジョン
>43-44 海子と篠原
>45-56 接触(>56 挿絵つき)
>57-59 力
>60-62 番外編
>63-65 心
>66-70 リスト
>71-72 暴走

…の辺り。

3 :編集人:01/12/12 05:58
注)
これは私こと、関西が、鈴木氏に了承を得た上で書きなぐる
SF話です。

4 :編集人:01/12/12 05:58
1    世界へ。

グリーンに発光する線が、目も追いつかぬ高速で走る。
暗い、おそらく無限に広がる空間を無数のそれが移動している。
その線は、何処から来て、何処に向かっているのか。予想もつかない。
無節操に曲がりくねり、線と線は交じり合ったり、衝突したりしている。
また、他の線と接触するたび、、線はぴりぴりと音を立てた。
線を追う事をやめ、その空間の中心に視線を移すと
そこには生き物なのか、はたまた無機物なのか、一定のリズムで
収縮をくりかえし、形を変える物体が、鎮座していた。
ときたま、その物体に線からの、何か発信され、それを受けて
物体は収縮変形し、線から発信された何かを返信している。
鈴木は、ただ、そのやり取りと、線と物体の描く美しくも
不思議な光景を呆然と眺めていた。

5 :編集人:01/12/12 05:58
2   覚醒1
鈴木は、そのグリーンに発光する線が何者なのかだけはわかった。
意思だ。
人間の、いや、心を持つ何者かの発信する、意思。
決して人間だと特定する事はできなかった。
なぜなら、その線が発信する「何か」は、意思そのものであり、
日本語、英語などといった言葉という形をとっていなかったからだ。
なぜ、鈴木はそれがわかってしまったか。
それは、突如として送られてきた物体からの信号を、
「受信」してしまった事にはじまる。

6 :編集人:01/12/12 05:58
呆然と、線と物体、線と線のぶつかりを眺めていた鈴木は
突然の迫り来る気配を感じた。
その気配に驚き、気配のする方向に視線を投げた。
その気配の元は物体であった。
すると、今まで以上に変形し、長方形にまで伸び上がった「物体」
その中心部には、今まで線との交信に使われていた意思とは、
格段に異なる光が収束され、どんどん大きさを増していた。
物体は、明らかに鈴木に向けて、何か大きなモノを放出しようとしていた。

7 :編集人:01/12/12 05:59
危険だ。逃げなければ。
そう思うが速いか、物体は鈴木に向けて、巨大な光を放出した。
それは、今まで物体と線が交信するのに使っていたのとは
比べ物にならない、もはや別物の光だった。
それは、鈴木を包み込んだ。

8 :編集人:01/12/12 05:59
様々な情報が鈴木の内部をかけめぐっていた。
同時に、様々の感情も。
死、恋、落胆、望郷、喜び、揺らぎ、迷い、悲しみ、疑心
それこそ、世界中の人間、あるいは、意志を持つ者の、
持ちうる全ての情報や感情が鈴木を包み込み、入り込み、侵食していった。
脳は、その膨大すぎる情報量に悲鳴をあげ、今にも破裂しそうなほどに
頭蓋を内側から圧迫した。
「壊れる!」
鈴木は反射的に頭を押さえようとした。
ところが、手が、ない。どころか、体がなかった。あったのは、自分
という、存在だけだった。肉体と言う枠は、ここでは存在しなかったのだ。
そうか、俺もあの線の一つだったのだ。
そう解ったとき、膨大な情報の全てが自分を突き抜けた。

9 :編集人:01/12/12 06:00
どの位の間、だったろうか。
鈴木が意識を取り戻すと、自分と言うものが、何か明らかに変わっている
事を感じた。
なんだ?何がおきた?
そうだ、俺は奇妙な世界に入り込んで、不思議な光に包まれて・・。
そう考えながら、全身の感覚が全て戻ってくるのを鈴木は感じていた。
全身の感覚といっても、手や足といった感覚は戻らなかった。
どうやら、依然として、あの世界からは抜け出せていないようだった。
つまり、戻ったのは、自分の意思であり、先ほど物体から放たれた
膨大な情報の全てだった。
全ての感覚が戻り、最後に視覚が戻ったとき、鈴木は愕然とした。
なんと自分自身が、物体として、世界の中心に鎮座していたのだった。
鈴木は、物体に取り込まれてしまったのだ。

10 :編集人:01/12/12 06:00
風が、赤みを帯び始めた木々の葉を、どっと、揺らす。
空気のにおいが乾いている。その中に僅かだが透き通るような
柑橘のにおいを感じる。
もう、冬が近い。
とうに日の暮れた中、一人研究室に残っていた海子(うみぴこ)は冷め切った
紅茶を一口飲んで、うん、とイスから立ち上がり窓を開け放った。
とたん、狙ったかのような強い風が海子の柔らかな亜麻色の髪を乱した。
海子はうっとおしそうに髪をかきあげ、窓から外をながめていた。
暗くなると、校舎の影が一層、人気の無さを際立たせた。
ふと学生だったころの自分を思い出して、クスリと頬がほころんだ。
「教授」
「!?誰?」
声は、窓の下からきこえた。闇にかくれて誰だかわからない。
「はは、なにやってんすか?」
「篠原君?」
篠原聡。この、海子が教鞭をとる明宝大学の聴講生だ。三年生。
容姿に定評のある海子は、もっぱら、若い男子に人気があった。
しかも、25歳という歳で教授なのだから、そういった知的な魅力も手伝っていた。
篠原は、「いま、そっちいく」と言って、闇にきえた。
海子は、それどころじゃあないんだけどなあ、と、夜の迫る空を見ながら
そう思った。

11 :編集人:01/12/12 06:01
たん、たん、たん
研究室のすぐ脇の階段から、おそらく篠原であろう、階段を上る足音が聞える。
人気が無くなって、寂しささえ感じさせていた校舎は篠原を歓迎するかのように
その存在を体全体を使って響き渡らせていた。
たん、たん、たん
篠原の近づいてくるのがわかる。どうやら階段を一段抜かしで飛んで来るようだ。
目標に向かって真っ直ぐで、何者も恐れない。
いや、恐れることの必要性をまだ知らないのだろう。
そう、それが若さ。恐れを知ってしまった途端、人は歳を取る。
私は恐れを知ってしまった。恐れる事の必要性を。
一段と篠原の存在を近くに感じる。私は篠原がうらやましい。
その、真っ直ぐな若さが。
ガラリ。研究室の引き戸が、勢い良く開かれた。
「先生!」
いつも満面の笑みで、若さの塊は私をそう呼ぶ。
「教授だって言ってるでしょ」
これが私と篠原。教師と教え子だ。それ以下でも、それ以上でも、ない。

12 :編集人:01/12/12 06:01
「先生!」
「教授だっていってるでしょ」
私は、もしかしたら立場と言うものを盾に彼を拒否しようとしているのかもしれない。
真っ直ぐに伸びた背筋、しっかりとした、きっと私くらい簡単に持ち上げそうな
腕。がっしりとした肩。ブルージーンズが良く似合う足。
そして、精悍で彫刻のような面立ち。
篠原は、美男子だ。
彼に「先生」と呼ばれたり、敬語を省かれたりする事に、不謹慎だが
嬉しさをも感じる。
そして、何より成績優秀で、私のゼミの中においても常にトップだ。
この大学は決して良いとはいえないが、それでも、彼は将来有望だ。
私が篠原位の歳のときだったら、間違いなく彼にほれている。
きっと、同じライン上に立ってしまえば、きっと今でさえ勝てる気がしない。
私は、そう謂った劣等感を「私は教授、貴方は生徒」として、
区別する事によって、彼との関係を平行にもっていこうとしている
のかもしれない。
しかし、「先生!」この一言を言われるたび、喜びがこみ上げてしまう
のは、どうしてだろう。
「そこに座れば?」
彼に指図する事によって私は確立する。自分を確かめられるのだ。

13 :編集人:01/12/12 06:02
篠原は職員用のイスにドサリと腰を掛け、荷物をがさつに放り投げた。
「で、なにやってんの?こんな遅くまで」
「あなたこそ一体なにしてたのよ」
篠原は、煙草を二本取り出して、私に、一本どう?というゼスチャーをした。
私は、いらないというゼスチャーを返して、彼との距離を測る。
「俺は、あれだよ、その、忘れ物」
目をキョロキョロと動かしながら、彼はそう謂って、煙草に火をつける。
「怪しいわね」
「そんなことない、忘れ物だよ。先生こそ、何してたの」
「教授」と、再び距離を保とうと、私はあがいた。
しかし、このやり取りも、もはや彼との連帯感を強めているに他ならない。
私はそれをわかってるのだ。でも、やめられない。
私は、彼との関係を望んでいるのかもしれない。
「またぼーっとして、ごまかすなよな」
「それ」
私は、今自分の考えた事を隠すように笑って、机の上の書類を指さしてみせた。
それは、先日私のもとに送られてきた一通の手紙だ。
篠原は、食い入るようにそれをよんでいる。
私は再び窓の外に目を向け、自分の煙草に火をつけた。

14 :編集人:01/12/12 06:02
4  能力

湧き出すような知識、自分の物ではない感情。
それらは、線から送られてくる意思と同時に、自分の中を通り抜け、
別の線に送信される。
鈴木が物体に取り込まれてからというもの、物体のもつ知識はますます
膨れ上がり、それを自分の情報として認識できるという点で、鈴木自身が
完全に物体の一部である事を認識させた。

しかし、線の意思を受信し、他の線へ送信するという作業を、物体は鈴木の意思
とは関係なく、たんたんと進めてゆく。そう、鈴木はあくまで、物体の一部に過ぎない。
このやり取りを、自身の身体で感じる事のできる鈴木は、だんだんとこの世界の、
仕組みがわかってきた。
それを簡単に説明すると、どうやら線たちはそれぞれが独立した意思であるようであった。
独立した意思をもち、独立した知識をもっていて、それを交換するべく、他の線と
交信をするようだ。まるで、会話するように。
しかし、線は言葉とかといった様な、意思を相手に伝える為の基準をもっておらず、
じゃあ、どうやって交信するのかという所で、物体の存在が必要になった。
線は、交換、交信したい意思や情報を、一度物体に通す事によって、ある種の定まった
信号におきかえる。その信号は、どうやら各線共通して解読できる、現世における
英語のようなスタンスをとっているようだ。
つまり、物体とは、言語の異なる人種同士の通訳のような役割を持っていたのである。

15 :編集人:01/12/12 06:03
その交信は、絶え間なく行われ、それと同時に、物体内部には
交信された情報の全てが蓄積されてゆく。
鈴木は、全ての線達の感情や、線達の持つ情報の一部を管理する事が出来るのだ。
その情報を自分の中に取り込んでゆく作業だけで、鈴木は満足だった。
しかし、納得できないのは、何故物体は自分をとりこんだのか、という点。
鈴木が見る限り、物体内部には自分以外の自我を持つ存在を確認できなかった。
にも関らず、あのとき、物体は明らかに自分の意思で、鈴木をとりこんだ。
何故。そう疑問を感じた瞬間、彼は現れたのだ。

16 :編集人:01/12/12 06:03
鈴木の意思に何かが呼びかけている。
それは突然湧き上がるかのように、鈴木の内部へあふれだし、鈴木の意思をも覆いつく
さんとした。
自分になにが起きているのか、なにが入り込んだのかも解らない鈴木は、必死にそれを
拒絶しようとしてあがいた。
しかし、抵抗すると言っても鈴木はまだ、その方法をしらない。
ただただ、自分の意思に覆い被さる何者かから、自分の意思をずらし続ける。
あがき続け、疲れ始めた鈴木に、突然聞えるものがあった。
「怖がるな おそれるな」
言葉だった。その、なにものかは、明らかに日本語を使って鈴木に話し掛けている。
その言葉に対し、未だ信用できない鈴木は、あがく事を止めない。
すると、何者かは、意を決したかのように、今までのそれとは一転、
恐るべき勢いで鈴木の意思を包み込んでゆく。
なされるがまま、とりこまれた鈴木はついに観念し、「彼」の話を聞く決意をした。
「おそれるな」
「あんたは何者だ?なにをしようとしてる?」
「私はお前の前任だ。全てを教えてやる」
「前任?では、貴様が俺をこんなにしたのか?」
「そうだ。お前をこの世界に導いたのも俺だ」
この世界に自分が「連れ込まれた」事を知って、鈴木は怒りを覚えた。
なぜなら、せっかく意味不明なこの世界に納得しかけた矢先に、そんな事実を
話され、しかも、その話の相手が仕組んだ事だとわかったからだ。
しかし、同時に、焦りと恐怖を覚え、意思をぎゅっと固まらせた。
既にここでの楽しみを知ってしまった鈴木は、現世に戻りたいなどと言う気はまったくなく、
もしかしたら、現世に送り戻されるかもという恐れと、
彼がそれだけの事ができる存在だろうという事からの恐怖に伴う焦りだ。
「なにが目的だ」
そんな鈴木には、そう問いかける事が精一杯だ。

17 :編集人:01/12/12 06:04
彼は言う。
「お前は、適合してしまったのだ」
「管理者としての、規格にあてはまったのだ。お前は、ここの管理者に
なったのだ」
「ここ?ここってなんだ?この世界か、それともこのへんてこな物質か?」
彼は答える。
「いいか。よくきけ。いちいち一問一答は読む人が疲れる。
つうかめんどくせ。こんな口調もだりい。だから、一片にしゃべる」
さらに、彼は一方的に続けた。
「だから、俺がしゃべり終わるまでまて」
鈴木は、このあまりの強引さに圧倒され、言ってしまう。
「わかった」と。
すると、彼は用意していたかのように鈴木を覆っていた自分の一部を分離させて、
鈴木の視覚を包み込み、こう言った。
「これから見せる光景が、お前を納得させるだろう。そして、
これが事実なのだ。」と。
その言葉を聞き終わった鈴木の目の前に、ざあっとある光景が広がっていった。
「これ・・・は?」
鈴木は、息をのんだ。

18 :編集人:01/12/12 06:05
手紙

篠原は手紙に焦点をあわせたまま、くるりとイスを回転させ、私のほうに
向き直り、そして私の目をじっと見ると、目をしかめて一言。
「マジこれ?」
煙草をフィルター直前まですって、灰皿におしつけながら、その問いに
肩をすくめてみせた。
手紙の簡単な内容はこうだ。
差出人の兄が、突然消え、しかも、その瞬間を見たという。
それだけじゃない。
その兄は、消えたはづなのに、兄のお気に入りの掲示板に書き込みをしているという。
それは偽者でないという。
その証拠に、兄のPCからでしか得られないIP入りのハンドルをなのっているという。
その掲示板に、自分も参加し、話し掛けたが、意味不明な事ばかりで話ができないらしい。
そこで、この私に相談したいという。
ざっと、こんな内容。

19 :編集人:01/12/12 06:06
しかし、何故、私なのだろう。私はただの英文科の教授だ。
私になにを求めているのだろう。とても理解に苦しむ内容に加え、見知らぬ人間からの
範囲外の相談だ。
しかし、嘘にしては、文章に切実さ、真剣さがあふれている。
「どう思う?篠原君」
私は、篠原に決断してもらいたかった。もう、私にとってはどうでもよかったのだ。
私にはほかにたくさん仕事がある。その時間を意味のわからない話に裂いてやるような
余裕はないのだ。しかし、あまりにその手紙が切実だったこと。
これだけが、私の良心というへこみに、食いついてはなれなかった。
「おもしろいよ。この人にあってみようよ」
篠原は目をキラキラさせながらそう謂った。
どうやら完全に興味だけでの発言のようだ。私は、篠原のこう言ったところも
キライではない。これも、私にはなくなった若さの一つだ。
彼の、恐れをしらない若さ、そして、自分を縛るもののない環境。
これも若さだ。私は、ふふ、と笑って、
「やっぱり、言うと思った」
再び煙草に火をつけ、私は続けた。
「篠原君、いつ暇?」
篠原は、いきなりの誘いに驚いたのか、急に目をそらして、こう言った。
「いつでもいいよ。俺は暇だし」
「もう、俺行くわ、バスなくなちゃうから。電話でもしてくれれば、ね、教授」
「わかった、電話でもするわ」
私の言葉の全てをきかない内に、篠原は研究室をでていった。なんだか大急ぎで。
私はまた、ふふふと笑って。「これも、若さかよね」
そう一人つぶやいて、窓を閉めた。学内のエアコンが暖房にかわっている。
もう、冬なのかもしれない。

20 :編集人:01/12/12 06:06
木々の葉に僅かに色付きが見られるようになり、同時に生徒たちも
冬の到来を思わせる、温かみのある素材をつかった服装をしはじめた。
ここしばらくの気温の変化の成せる業だろう。
日の陰る校内には、朝から強い風がふいている。夜には星が満開になるだろう、雲の歩みがはやい。

「ナガセー!ナガセー!」
篠原が、最近キャンパス内に住み着いた野良猫に餌付けをしている。
どうやら彼の最近の習慣のようだ。もしかしたら、ナガセがここに住み着いたのも、
彼の仕業かもしれない。
ナガセという名は、その猫の特徴ある毛並みからきていて、篠原いわく、
「こいつ、長瀬智也の髪型そっくりじゃん」らしかった。
ナガセは、女子生徒からも人気があり、当然、ほぼ飼い主である篠原はその女子の一団に
自然と加わる形になり、キャンパスの一角はナガセをあやしている女子と篠原の
歓声で、木々同様、にわかに色づいていた。
私は、大学側の人間のであり、猫は連れ込むなというスタンスをとるべきなのだが、
彼らの笑顔をみてしまうと、そうはとても言えない。
他の女子はともかく、彼は三年生だ。もうすぐ、就職活動にはいる。
それは決して楽なこととはいえない。優秀な彼をもってしても、きっと、困難失敗の
連続だろう。
大丈夫だろうか。単位はきちんと取れているし、成績はもちろん、素行もよい。
良い会社に決まればいいが。
と、ここまで考えて、はっとした。
いつのまにか、一介の生徒であるはずの篠原を、私は個人として心配していた。
ざあっと、風が走る。女子のナルシズム的悲鳴が響く。木々はゆれ、葉もゆらす。
そして、私もゆれている。

21 :編集人:01/12/12 06:07
ナガセをあやす、篠原、その篠原に話し掛ける女生徒、
それを遠くから眺めている私。
一体、なにがしたいんだろう。
そう思った瞬間、なにかいてもたってもいられなくなり、
背筋をぐいっと伸ばし、一人「さあ、仕事だ!」と、自分を奮い立たせる。
私は机の引き出しにしまってある、クリアファイルをとりだした。
そう、「手紙」だ。
差出人は。「牛田 京子。」(うしゃ。)
住所と、わざわざ電話番号までそえてある。
ふと、窓の外の篠原達がきになって、目をめぐらすが、姿がみえない。
私は何故かあわてて、窓に張り付いた。とたん、研究室の引き戸が、
勢いよく開き、振り返ると、そこには、やはり。
「先生!ナガセー!」
篠原だった。腕に小さな猫、ナガセをかかえている。
あわてた私の口を飛び出たのは、心にも無い、
「ノックくらいしなさい。ここは職員室よ。」なんていう硬い言葉だった。
一瞬、彼は反省を臭わせたが、そこは彼の性分だ。軽く流された。
いや、流してくれたのだ。
「そう、手紙の件だけど、」と私が切り出すと、待ってたかのように彼は、
「いつ?いついくの?いつでもいいよ!なあ、ナガセ!」
「ニャア」答えたのか、それとも相槌なのか、ナガセが一声鳴いた。
「ふふ、今週末、どうかしら。先方には私が連絡するから」
彼は、肩を縮ませ、にっこりと笑い、一際大きな声で言った。
「じゃあ、詳細電話して!まってる」
と、言って彼はまた、大急ぎで部屋をかけだしていった。ナガセを忘れて。
「ニャア」
「食べる?クッキーだよ」
私は、彼が好きだ。確かに今、そう感じた。

22 :編集人:01/12/12 06:09
街路樹の淋しい。パチンコ屋が多く立ち並び、客引き販促用の旗が、冷たい風に
たなびいている。バスロータリーが設置されていて、しかし、市の意向とうらはら、
朝九時だというのに人はまばらであり、この街の朝出勤人口の少なさを語っていた。
ここ、山海市山岩駅付近とは、労働者階級の多く住む一帯で、治安も悪く、路面に
捨てられた煙草の吸殻の掃除する人間もいないというありさまだ。
そんなところに私が住んでいるのは、ただ単に、家賃が安く、大学に近いという理由
だけだった。
空の曇っているのも手伝い、今朝はさらに閑散としてみえる。
バスロータリーの「山岩駅〜赤葉山」行き停車場前には、誰もいない。
篠原はまだ到着していないようだ。そう、今日は篠原と共に、あの
手紙の主である「牛田京子」と会って話をする約束になっている。
先方に電話をしたところ、とても電話では話せる内容ではないというので、
市内の歓楽街にある喫茶店で落ち合うことになったのだ。
現在午前九時。約束は正午だ。
篠原は一体何で来るつもりなのだろう。電車だろうか。バスだろうか。
そう謂えば、私は篠原の住んでいるところをしらない。
何処に住んでいるのだろう。家族と一緒だろうか、それとも田舎から出てきて
一人で暮らしているのだろうか。そうだ。私は彼のなにもしらないのだ。
そんなこともしらないのだ。彼の全てを知ったとき、私はどう思っているのだろう。
私は、彼を愛しているのだろうか。今だってそうだ、興味があるだけなのではないか。
もう一度、バス亭を見る。黒いジャケットを羽織った背の高い男が立っている。
篠原だ。  

23 :編集人:01/12/12 06:09
篠原を停留所に見つけた私は、走り出したい気持ちをおさえ、
慎重に、おかしいところの無いように、歩き出した。
あちらこちらを見ながら、まだ私が篠原の存在に気がついていないふりを
しながら、丁度良い距離で、篠原に気づいたふりをした。
すると、篠原は私に気がついた様子で、こちらに向かって歩いてくる。
「先生!お待たせ」
「待ったわよ。何で来たの?まさかこのバスじゃあないでしょう?」
「原付だよ。そこのパチンコ屋にとめておいた」
「そっか、じゃあ、むかいましょう」
といって。私は篠原の先を歩き出した。私は強がりをしているのだろうか、
篠原の歩調を考えず、駅の階段を上る。
「まってよ、速いなあ歩くの」
といって、駆け足で階段を上ってくる篠原。なんだか可愛い。
「早くいきましょう。待ち合わせは12時よ。今は・・」
そこにタイミングよく篠原が答える。
「九時半!遅れてごめんね!」
彼の顔をみると、やはり、満面の笑みだ。彼の笑顔は何故か、
なんでもゆるせてしまいそうに思える。屈託の欠片も無い。
それは、筆者がモヒカンであるなんていう事すら、許せてしまいそうである。
ここから、歓楽街である「八谷」までは、鈍行で約50分かかる。
篠原が遅れたとはいえ、かなり時間があまる計算になる。
ホームに着くと、丁度、八谷方面行きの電車が到着するという、アナウンスが
流れていた。適当な雑談をしながら、私と篠原は、電車の到着をまった。
聞きたい事も、あなり聞けないもどかしさと共に。

24 :編集人:01/12/12 06:10
流石にここ、八谷は市の認めた歓楽街とあってか、山岩駅とは比べ物ならない
人の流れだ。
早足であるく営業のサラリーマン達が全員が全員、携帯電話でなにやら話している。
街路樹もきちんと整備されており、路面もしっかり掃除されていて、人の多さに
比べても、清潔感を感じる。
駅から出た私たちは、雲の切れ間から差し込む日差しの予想外の歓迎と、
その人の流れに圧倒されて、暫く呆けてしまった。
「いきましょうか」
と、篠原を誘導するものの、まだ、時間はありあまっている。まだ十時半だ。
あと一時間半もある。
私が時計を見ていると、篠原は落ち着かない様子で、時間が余ってるなら、
ちょっと散歩がてら、ここらの探索をしよう。と提案してきた。
確かに、他にすることがないので、私は「そうしましょうか」と、うなずいた。

25 :編集人:01/12/12 06:10
とはいったものの、篠原もやはり、ここが地元ではないようで何処に向かえば
良いのか迷っている様子だ。
これも若さだ。目標があると、素晴らしい加速をみせて走り出すが、
目標を失ったとたん、その足はただの棒と化す。しかし、若さは勝手に走り出し、
そして道に迷い、だんだんと自分の世界にひきこもろうとする。
それを放っておけばいずれ、堕落する。それは孤独との戦いでもある。
しかし、今、篠原には私がついている。
「あっち、いってみよう」
私は、篠原をひっぱり、人の多く流れ込んでゆく、大きな「八谷センターモール」
とかかれた看板の方へ歩き出した。暫く歩いて、気がついた。
私と篠原は、無意識にも手を繋いで歩いている。こんなところをもし、大学の関係者に
みられては何をいわれるか。解ったものではない。私はさりげなく、時計を見るふり
をして、彼とのつながりを解いた。解かれた篠原の手は、空をさまよい拠り所にこまり、
そのうち、ジーンズのポケットの中へひきこまれた。
妙な空間が私と篠原の間にながれた。いや、私がその空間を作り出してしまったのだ。

26 :編集人:01/12/12 06:10
ゲートをくぐると、待ってましたと言わんばかりに、様々な店舗の前に
たっている客引きが声を掛ける。
「どう、パタゴニア入荷したよ〜、はいってって?」
「らっしゃい、どーぞーランチ900円ー」
人の流れはいつ誰が決めたのか、向かって左が行き。右が帰りという流れになっている。
私たちもそれに逆らうことなく、ゆっくりと進む。
社会とは、こう謂うものだ。我を通さず、ゆっくり、しかしきちんと歩き、
流れに逆らわなければ、目的地には少なくとも近づく。
私が篠原とこうして歩いている事は、きっと、間違いなのだ。
流れに逆らっている。その証拠に私は誰かの目を気にしてしまっている。
適当な雑談もいつしか話題にこまり、私たちは、雑踏の中を無言で
進んでいた。しかし、寄り添うように、はぐれないように身を寄せながら。

27 :編集人:01/12/12 06:11
客引きの誘惑はとどまる所をしらない。
かといって、私たちは何処に向かうとも決めておらず、
足取りは僅かにだが、右へ左へ。目的のない人間の歩き方になっている。
客引きの目はそれを見逃さない。
「どうだい、そこのカップルさん、アジア雑貨なんだけど、ゆったり
眺めましょうよ」「ねえ、雰囲気いいよ」「どう?」
その客引きは他と違って、なにやら不思議な雰囲気をかもし出しており、
それに何かを感じたのか、篠原は、
「はいってみようよ、どうせ何処行くでもないんだしさ」
といって、私の手を引っ張りだした。抵抗するいわれもなく、その
若さにしたがって、その妖しげな店構えのなかへ入っていった。
アジア雑貨と言うだけあって、店内は暖色の明かりと、お香のにおいで
充満している。店の奥には店長とおぼしき、インド風の様相の男が
目を中空にさまよわせながら、「いらっしゃい、みてってー」
などと、気の抜けた声で歓迎してくれた。
篠原は、以外にも、その品々に強い興味を持った様子で一品一品、舐めるように
眺めている。私は、なにやら新しい篠原の一面を知って、以外だと驚く
反面、それを知った嬉しさで一杯だった。

28 :編集人:01/12/12 06:16
番外編  篠原、アジアに惹かれる。

不思議な気分だった。
僕は何故、このような魅力の前を素通りしてきたのだろう。
歴史が凝縮されたような細かい銀細工、丁寧な作り。
そしてこの品々の流す緩やかな時間。
ゆっくりと、先生の存在も忘れてそれらを眺めていた。
先生は、ずっと横についていてくれた。
先生は僕をどう思っているんだろう。ただの生徒か。さっき手を解いたのは その証拠だろうか。
そう思いながら、銀の香炉を眺めていると、店の奥から声が響いた。
「それ、きにいったの?」
アジア風の衣装に身を包んだその青年は、僕の持っている香炉と
僕の顔を交互にながめ、立ち上がって近づいてきた。
「それは、インドのものなんだよ、貴族がつかっていたんだ」
その青年の胸元に目を落とすと、ネームプレートに漢字で「関西」と書いてある。
「関西って、名前?」ときくと、
「ああ、これ。気にしないでくれー・・・。」
「そう」といって、僕は再び香炉を見た。
すると、彼は急に「うあああああああああああああああああああ」
と叫び、ええええ?と、彼を見ると、頭を縦にふりまくっているではないか。
こいつやばい。そう感じたが速いか、先生が僕の手をぐいとひいて、
僕を店の外に引っ張り出した。
「あの人、あぶないわかなり」先生は驚きまじりの笑顔でそういった。
客引きの青年が、店内にすっとんでゆく。すれ違い様に
「ああ、ごめんねえ、たまにちょっとねえ・・」
といっていた。たまになのか。何なんだいったい。
店内から、関西という青年と、客引きをしていた青年の騒いでいるのが きこえる。
「うおあああああああああ」「なにやってんだよ!せっかく客が」
「かれーーーーーーどこいったーーーーー」
「いるいる、俺ここ、カレーだよー」
「ふあああああああああああああああ」
「落ち着けってー」「だああんだななななんああ」「あばばばばばb」
・・・・・・。
行こう、といって、僕と先生はまた、雑踏に踏みだした。
背後で何かが崩れる音、叫び声。
振りむかないようにしようと、先生が言った。


※篠原と教授 画:まりりん☆彡
ttp://www22.big.or.jp/~15ch/oekaki/picture.cgi の3586

29 :編集人:01/12/12 06:16
牛田京子

朝6時に起きて、お化粧をして、朝ごはんを一人分つくり、野菜ジュースで流し込む。
ワンルームの部屋に鍵をかけて自転車にのる。
アパートから10分の駅に着き、いつもの電車のいつもの車両のいつもの場所に
たち、文庫本をよみながらひと時の現実逃避を三十分。
そして会社。タイムカードを押して上司や同僚にあいさつをする。
自分用に用意されている机に向かい、溜まっているデータの処理と、商品の発注をこなし、
お茶をくみ、或いはコーヒーを沸かし、皆に感謝され、それを定時まで繰り返す。
ときおりの同僚や上司との雑談をまじえながら。世に氾濫するセクハラなどとは無縁
で、残業も多くて一時間。大体の日は定時にあがれる。
就業後は友人であり同僚でもある仲間と買い物をしたり、食事をたのしんだり。
週末は一日をぼうっと過ごしたり、二ヶ月とか三ヶ月とか一定期間現れる、
彼氏という存在と時間をともに過ごしたり。
あまりに普通で適度に充実した日々。私はそんな生活に満足していた。
しかし、その生活は、ある一つの出来事で歪んでしまった。
まるでお気に入りの鏡にひびが入ってしまったように、生活と言う鏡は
私をきちんと映さなくなってしまった。
はたから見れば、それは僅かなものであるだろう。しかし、毎日その鏡を気に入って
使っていた私にとって、それは耐えがたい傷であったのだ。気になって気になって
仕方ないのだ。

30 :編集人:01/12/12 06:17
兄が消えたという。私が17のとき、彼が家を出てから五年。
母だけが彼との接触を可能としていたが、実際はただ、月ニ、三万の仕送りを
しているだけだった。それが今ごろになって。
母に定期的に連絡をよこしていた兄から、突然連絡がこなくなった。
心配になった母は、兄のアパートに行ってみたのだが、電気はつけっぱなし
電子レンジのなかにはラップに包まったご飯、テーブルには
気の抜けた炭酸飲料と腐った刺身が食べかけのまま置いてあり、
備え付けのイスは、ついさっきまで誰かが座っていたかのように僅かに右に傾き
引き出されており、その方向には兄が使っていたパソコンがおいてあったという。
携帯電話やジッポーライターも、そのまま。
母が言うには、兄は出歩く時は必ずそれらを持ち歩いていたらしい。
灰皿には、形のまま灰と化した煙草があったという。
それから数日間、兄からの連絡は無く、母は警察に届をだした。
まさに、兄は神隠しにでもあったかのように忽然と、水が自然蒸発
するように、消えてしまったのだ。

31 :編集人:01/12/12 06:17
しかし、私は兄なんてどうでもよいのだ。
私が小さい頃から、兄は無口で、父はおろか妹である私にすら、その口を
開く事はあまりなかったが、唯一母だけは例外。
兄は母だけには笑顔をみせ、泣き顔をみせ、時に怒りを見せもした。
私にとっての兄とは、古い西洋の置物の甲冑だった。
他人への無関心という鎧で自分を守り、その鉄兜から覗く兄の目は、まるで
プラスチックの様だった。
兄は特別な用でもなければ、兄は母以外誰とも口をきかないし、目もあわせず、
私と話しているときもこちらを見ているようで、実は私のはるか後方に
兄の視線はあった。兄は自分の意思のみを主張し、こちらの意見はその
鉄兜に跳ね返された。
果たして兄と呼べる代物なのかと疑問に思う時さえあった程だ。

32 :編集人:01/12/12 06:18
そんな兄が、消えた。
でもそれが何だというのか。元々私にとって兄なんて言う存在は
居なかったような物なのであり、兄が消えたというそれ自体、いや、
たとえ兄が結婚しようが、殺人を犯そうが、私には
まったく関係の無い話に思えた。彼が消えようと、私の生活は
変わらないのだし。しかし、実際は違っていた。
兄が消えて一ヶ月した頃だったか。
母が発狂した。意味不明で脈絡の無い言葉を口走り、家中の電気製品を
破壊し、止めようとする私や父の腕を恐ろしい程の力でふりほどき、
包丁で自分の手首を切り裂いたのだ。

33 :編集人:01/12/12 06:18
母はそのまま、精神病院へ入れられたが、それはやむおえない
処置だったと思う。
このまま家に放っておけば、手首の傷は治ってもいずれ再び発症する。
仕方の無いことだったのだ。
私はそのとき、、きっと兄が行方不明になってしまった事が原因だろう
と考えていた。それほど母にとって兄とは大きな存在だったのだと
解釈していた。だが、違ったのだ。
それは、その一ヵ月後。
今度は父がおかしくなった。
突然、誰かと口論し始めるのだが、肝心の相手が居ない。
私は、母のことで気力を使い果たし、ただその様子を呆然と
ながめていた。そのときだった。
「京子!電話線を切れ!こいつはそこから入ってくる!」
突然、私に向かって発せられる父の声。
「なに?誰がそこにいるのよ!」今にも泣き出しそうだった。
「あいつだ!お母さんも、あいつにころされそうになった!」
私は何が起きているのか解らない上、パニック状態におちいっていた。
父は叫び続ける。
「っく!きさま!何処に消えた!?どうしてお母さんまで!」
「黙れ!貴様に俺とお母さんの何がわかる!」
そう、父は誰かに叫びながら、泣いているしかない私を一瞥し
電話線をひきちぎった。
暫くの沈黙が流れた。どの位だったろうか。一時間もそうしていた様
でもあるし、もしかしたらほんの僅かの間だったかもしれない。
父はその沈黙を破るように、こう言った。
「孝だ。お兄ちゃんだよ!鈴木孝!」
孝。鈴木孝。
確かに父は、そう謂った。

34 :編集人:01/12/12 06:19
兄は別姓を名乗っていた。鈴木という、母方の性だ。
兄は五年前に家をでたのだが、その原因と言うのが父との衝突。
絶対に感情を表に出さない(母は別として)兄が、父に感情を吐き出したのは
私が知っている限り、後にも先にもそのときだけである。
その日、父と母は言い争っていた。家を新築するために、父と母が
こつこつ貯めた貯金を、父が無断で使っていたからだ。二百万円も。
私はその時期には、そう謂う事情には感知しないというスタンスを確立していた
ため、たいして気にはしなかった。冷たいようだが、仕方ないのだ。
そういう事情に絡もうとすればいくらだってできた。父が金を使い込んだのは
外に出来た女のためだったし、それを責める母だって、男が居た。
それを知っている私は、デートクラブでアルバイトをしていた。
そう、お互いさまだったのだ。だからといって、誰かが誰かを責めようものなら、
一家離散はまぬがれない。そのくらい、微妙なバランスで、私達はなりたっていたのだ。
知らないのは、兄ただ一人。
兄にとっての母とは、至上の存在であり、その至上である母と対等な口を利き、
対等以上のスタンスを取る父が、兄は大嫌いだったと思う。
事実、その日、兄は父を殴った。拳でではない、野球用のバットでだ。
それは父が兄の幼い頃、誕生日にプレゼントしたものらしいが、それを兄は一度と
して、使った事がなかったという。それを父は、ただ、大切にしているのだなと、
気にもとめなかったが、それは違った。兄は、父から貰ったものなど、使いたくも
なかったのだ。
父は息子にプレゼントしたバットで、その息子に殴られたのだ。
兄は父からもらったプレゼントであるバットの使い道として、
父を殴る事を選んだ。
こんな家庭。もしかしたら、私が思うよりもずっと早くに、この家庭は崩壊していた
のかもしれない。兄のバットは、それを如実に表していた。

35 :編集人:01/12/12 06:19
その事件の後、父は母にだまって兄を勘当した。
それを知った母は、父に怒るでも、兄の弁論をするでもなく、
兄を実家の鈴木という戸籍にいれたのだ。

その事件で、私達は完全に壊れた。細かいひびがたくさん入った家庭
なんて何処にでもある。それは、速い内に話し合いや、金銭で
補修すればいくらでも直しがきく。
しかし、私達はその傷を放置しすぎた。どころか、お互いにその傷に
依存しあい、あいての弱みをにぎり、それを互い互いの口封じとして
いたのだ。修復不可能だった。
兄のバットはその醜い関係に、純粋に振り下ろされただけ。

現在、父と母は別居している。私は一人暮らし。兄も一人で暮らしていた。
兄は、家庭をどう見ていたのだろう。
かたくなに口を閉じ、母にしか感情をあらわさなかった兄。
ひょっとしたら、兄だけが、兄と母の関係が、私達を家庭として
結びつけていたのかもしれない。
ふと、そう思った。

36 :編集人:01/12/12 06:20
しかし、今となってはもはや遅いのであり、覆水盆に帰らずなのだ。
一度粉々に壊れた人の絆は、いくら私達が手を尽くしたってなおりっこない。
もし、それを治すことが出来るものがあるとすれば、それは時という物に
よって引き起こされる、風化現象だけだろう。
今は剥き出しの神経のような傷でも、いつしかその上に「これから」という
皮膚ができ、それは幾重にも重なりあい、次第に傷はすっかり治ってしまう。
そういうものなのだ。
しかし、別段その傷を治そうとも思わない私には、それは既に傷ではないのかも
しれない。まるで神経の通っていないところに大怪我を負ったようだ。
自分自身は何も感じないが、他人はそれをほうっておかない。
人間にとって他人の傷の匂いほど、ひきつけられる物はない。
それは獲物を見つけた肉食獣のごとく、静かに、静かに忍び寄り、隙さえあらば
襲い来る。ある者はあざけり笑い、また、ある者は同情に流した自分の涙に
酔い、また、それをネタに私を何処かに引きずり落とそうとする者もいるだろう。
一本の川をそれぞれが別の使い方をするように、私の傷という川を、彼らは
決して見逃さない。まさに、砂漠に突如として流れ出した水なのだから。
私は、そんな社会に生きている。笑顔の裏に獣の目が光る世界に。

37 :編集人:01/12/12 06:20
しかし、それを知っているからといって、私にはどうすることもでき
ない。出来る事といえば、せいぜい、その傷から漂う血の匂いを
彼らに悟られないようにするだけだ。
が、何処でどう伝わったのか、その血の匂いは私達の意志に
関らず、近所はもちろん、父の会社や取引先、そして私のオフィス
までにも広まった。
私の場合、社内に怪メールが流されたのだ。
しかも、その内容は、兄の失踪だけではなく、私達の家族関係や、
私の過去の素行など、それは私しか知らないはず、なんて謂う事
まで、克明に記されていた。

38 :編集人:01/12/12 06:20
そして、彼らは群がった。渇いた喉を潤すために。
噂が噂を呼び、尾ひれに背びれがついて、それはもはや、噂ではなく、
社内という一つの集落の常識となってしまった。
そうして起こるのが、イジメだ。
大人のイジメは狡猾で周到、しかし、稚拙であり、私が会社をやめる
には、十分すぎる内容となった。
それから私は、私達とまったく関係の無い、噂の飛んでくる恐れの無い
ところへ引っ越し、そこで職をさがし、就職した。
大丈夫、ここなら誰も私をしらないし、以前の交友関係の全て切ったし、
もう心配ない。と、思っていた矢先だった。
なんと、再び怪メールが社内にまわったのだ。
どういう事か。信じられなかった。一体誰がやっているのか、全く
見当がつかない。昔の男なんて、私の過去はしらないし、聞かれも
しなかったし、そんな事をされる様な別れ方はしていない。
友人関係だって、そうだ。第一、引っ越すなんて誰にも告げず、
夜逃げ同然にでてきたのだから、誰も私の居場所どころか、
就職先なんて解るはずがないのだ。
おかしい。と、思ったとき、父のあの言葉が記憶の淵から甦った。
「奴だ。孝だ。」
父の声は、私の耳の周りをぐるぐるぐるぐると、
いつまでも羽虫の飛ぶようない音をたてて、飛び回っていた。

39 :編集人:01/12/12 06:21
ビジョン

目の前に広げられたビジョン、いや、視覚に直接訴えかけるイメージと言った
方が、解り良いだろうか。
鈴木の意識には今、物体の前任者である、「彼」から送られてくるイメージが
視覚というスクリーンに広がろうとしている。
真っ黒いスクリーンは、徐々に透明さを増していき、そこに、まるで水彩絵の具を
水で溶いたときのような、淡い色の塊が脈絡なく広がり、周りの空間と徐々に同化
してゆく。
それは、赤、青、黄色といった原色で、溶け合いながらそれは、
ある情景に変わろうとしていた。
「・・・これは?」鈴木は息をのんだ。
「しっかり見ているんだ」彼はこういって、黙り込んだ。
スクリーンに広がった原色たちは、徐々に同化してゆき、ある情景を作り出した。

40 :編集人:01/12/12 06:22
人が山ほど倒れている。いや、倒れているのではない。どうやら、浮かんでいる
らしく、互い互いばらばらの方向を向き、その空間には重力なんて存在しない
かのように、彼らの存在する位置等もばらばらだ。
よく見ると、彼らは直立不動のまま、移動している。
ゆっくりと、その空間内を漂っているのだ。
「これは何だ?」鈴木は彼に問い掛けた。
「よく見ろ。これは人間だ。一人一人が人間なのだよ。但し、意思のみの塊だ。
自我という物だ。ただ、解りやすいように、人の形にしてみた。ほら、
ゆっくりだが、移動しているだろう。しかし、彼らは互い互いに、ある一定の
距離を保っている。わかるか?」
「わかる。」
「じゃあ、このその一定の距離を保つ理由は何だと思う?」
「さあ、わからない。」
「だろうな。では、二人、犠牲になってもらおう。」
といって、彼はその空間に浮かんでいる人々の中から、ランダムに二つの人間を
選び、彼らの保っている距離を縮めはじめた。
「何をする気だ?」
「黙ってみてろつうの」
二人の距離はだんだんと縮まってゆき、ついには接触した。
そのときだった。接触した二人の人間は、瞬時に消えてしまった。
「なんだ?どうした?消えてしまったぞ」
「そうだ。消えたのだ。いいか?お前も身に覚えがあるんじゃあないか?
人間は、決して分かり合えないのだ。そりゃあ、いくつかの記憶や思想を
共有したり、物事に共感したりする事はできるが、自我と自我が交わり、
一つになることは、ある種の人間を除いては出来ない。今のを見ただろう。
自我と自我のぶつかり合いを。」
「よく解らないが、つまり、距離を保つとは、自分を守る、そういう事か?」
彼は答える。
「そうだ。そして、その自我と自我の同化が出来る、それがお前なのだ。」

41 :編集人:01/12/12 06:22
彼は続けた。
「つまり、お前は全ての人間の意志を取り込むことができるのだ。」
「そうなのか?俺は今まで、ろくに人との接触をしたことがないが。」
鈴木の意思に、彼は僅かの恥じらいを見つけ、こう言った。
「それを恥じることは無いのだ。お前が今まで、どう暮らしてきたか
なんて、私は知らない。ただ、お前が選ばれてしまったのだよ。」
「??お前が俺を選んだのだろう?」
「ふむ。そうだ、ともいえるが、言い切れんな。全ての人が、お前を
選んだ。とでも謂っておこうか。」
「全ての人?何故、俺が?」
「お前は今まで見てきたろう?この世界を、その仕組みを。この世界は
つまり、先ほどお前に見せた、あの空間なのだよ。」
「つまり、線とは、人の自我で?」
「そうだ。そして、お前はその人々の意思を全て知る事ができるのだ。
それは今までこの物体の中にいて、わかったろう?ああ、そうか。
何故、お前が選ばれたのかが知りたいのだったな。いいだろう。
さっき私が言った事で解ったかもしれないが、この世界は全世界人の
意識の縮図だ。物質という枠、言語という枠を取り去った世界だ。
しかし、この世界こそが、人間界の真髄であり、全てなのだよ。
しかし、言語を取り去った世界で、人間が互いの意思の疎通を図る
場合、必ず生じるのが、誤解であり、矛盾だ。
そう謂ったものを取り去るべく、この物体は存在している。
それはわかるな?」
「ああ、通訳のようなものだとは、思っていた。」
「うむ。そのとおりだ。そして、お前は、その人間たちの自我と
同化できる、千年、いや、万年に一人の存在だ。お前は、世界に
選ばれたのだよ。お前しか居なかったのだ。」
「俺はそんなのやりたくない。あんたがやればいいじゃあないか。
今までやってきたのだろう?」

42 :編集人:01/12/12 06:23
俺は、もしかしたら現世に帰れないのかもしれないと言う焦りに
駆られていた。
その、鈴木の思考を読み取った彼は、ククッと笑い、こう言った。
「焦ってもダメだよ。もうここからはでられない。私は5000年待ったのだ。
お前のような存在が現れるのを。私は、5000年間ここで人の意思を
つかさどってきた。延々とな。」
「お前!俺をここから出せ!今すぐにだ!5000年だって?
冗談じゃあないぞ。ここで延々だって?ふざけるな。
俺はそんな事したくもない!」鈴木は、持てる限りの力であがいた。
ハハハと笑いながら彼は言う。
「無駄だよ。第一、ここから出たとしても、どうやって現世に戻るんだ?
それはあと数千年でわかるはずだ。まあ、焦るな。お前は、ここに居れば
いいんだよ。簡単だろう?ここに居るだけでいいんだ。」
鈴木は、なおもあがきながら謂った。
「出せ!早く出せ!」
「お前、ここから出れたとしてどうするんだ?現世に遣り残したことが?
無いだろう?違うか?ないだろうよ。お前にはもう、ここで時を過ごす
他に道は残ってないのだ。」
そう謂って、彼の意思が薄くなった。彼が消えようとしているのだ。
「待て!貴様!一体誰なんだ!?」
消えかかる彼を止めようとする一心で、鈴木は、そう叫んだ。
「私か。私はいままで、人が神と呼ぶ存在に近かったろうな。
お前は今日から神だよ。何かわからない事が出来たら私を呼べ。
では、またな。鈴木孝君。ああ、私を呼ぶときは、こう呼ぶがいい。
「侭」と。暇だったら応じてやろう。」
そう、謂い残し、「侭」と名乗った彼は消えた。
錯乱する鈴木を残して。

43 :編集人:01/12/12 06:23
海子と篠原

ホットコーヒーを注文したのに、何故かアイスコーヒーをウェイトレスが
持ってきて、しかし、たかがコーヒーと紅茶で注文してから二十五分も
かかっているので、もう怒る気も無くなり、かといってそれらを指摘して
ウェイトレスに再び二十五分かけてホットコーヒーを持ってきてもらうのも
なんだか面倒なので、不服ながらもアイスコーヒーをすすりながら、
「二度とこない」なんて不貞腐れてる、という篠原に、私は同情の笑みを返して、
チラと時計を見た。もうすぐ約束の時間であるが、牛田京子はまだ現れない。
八谷センター通りの人ごみは、それはそれは酷いものであった。
戦後の闇市のように、ずらり続く商店は全く一貫性がなく、例えば靴屋の隣に
何故か魚屋、その隣は洋品屋、というような有様で、魚の匂い、靴の皮の匂い、
新品の洋服独特の匂い、妖しげなお香の匂いなどが混ざり合って、異様な
雰囲気をかもし出しているという上に、その人ごみといったらもう、週末
という事もあるのか、歩くのがやっとで、一度立ち止まればその後ろがつっかえ、
一種の交通渋滞を引き起こすという有様だった。

44 :編集人:01/12/12 06:23
そんな中、妙な客引きに引かれ、入った店の店員に度肝を抜かれ、
逃げ出し、その後もしばらく、あてもなく雑多な商店街を歩いて
いたのだが、流石に、これでは暇つぶしであるはずの軽い散歩どころ
ではなく、牛田京子と会う前に疲れ果ててしまうと考えた私と篠原は、
多少時間は早いが、牛田京子との待ち合わせ場所である喫茶店へ
逃げ込んだのである。

45 :編集人:01/12/12 06:24
接触

カラン、カラン

とても滑らかな金属音が店内に響いた。ドアに設置された呼び鈴が、新しい客の訪れを
知らせて、私と篠原は一斉にそちらに目をやった。
そこには、黒い、やたらとテラテラ光る皮のコートを羽織った、若くて綺麗な顔
なのに、なんだか生気を感じさせない女性がたっている。
彼女は店内をぐるっと見渡し、私達のテーブルで目を止め、ペコリとお辞儀をした。
事前に打ち合わせしたとおり、窓際の一番奥、この席で。と、約束しておいたので
間違いないのだろう。彼女が牛田京子だ。
それにしても、どうしていきなり初対面である私が解ったのだろうか。
彼女は、スタスタと私達のテーブルに来て、再度お辞儀をし、こう言った。
「彦原教授と、篠原さんですね、牛田京子です。こんなところまで、すみません」
私達も、どうも、とお辞儀をして、篠原が席を移動し、私の隣へ来た。
私は少し奥へ、身体をうつし、篠原を迎え入れる。なんだか不思議な気分だ。
篠原は、少し遠慮がちに、私との距離をとって座り、牛田京子に、
「どうぞ」といって、不意に私の顔をちらと見た。
突然、篠原と目があってしまって、しかも何故かその目を私はそらしてしまった。
私は「で、聞きたいことは山とあるんですが、」と、話を切り出し、篠原との
きまづい空気を振り払ったのだが、どうも居心地が悪いのは気のせいか。
牛田は、「ええ、私もたくさん話さなければいけません。でも、あなた方を
呼んで置いて恐縮なのですが、私自身、何から話せばよいのか判断しかねるのです。
ですから、もし、何か聞きたいことがあれば、謂ってみてください。」
と、いうので、不用意な子だな、と思いながらも、確かに聞きたいことは山である
ので、お言葉に甘え、聞いてみる事にした。
「では、何故、その、私に白羽の矢が立ったのですか?」
という問いに対して、迷路の中、やっと出口を見つけた冒険者のように、
牛田は、今まで伏せていた顔をさっと上げ、話し始めた。

46 :編集人:01/12/12 06:24
「実は、彦原教授、貴方は兄を知っているはずなんです。」
私は、彼女の口から出たその言葉を巧く飲み込めず、喉につまらせた。
私と牛田の顔を交互に見る篠原に、手で、辞めなさいと言うゼスチャーをして、
「続けてください」といった。
牛田は、僅かに篠原の様子を窺い、再び話し始めた。コクリと喉を鳴らせて。
「ああ、また何から話してよいにか解らなくなってしまいましたが、
すみません、聞いてください。兄は、教授と同じ大学の出なのです。
そうです。W大学の英文科なのです。」
「しかし、それだけでは、私の質問の答えにはなりませんが?貴方のお兄さんの
名前は、牛田なんと言うのですか?」
私がそう謂うと、彼女は小さく何度かうなづき、こう続けたのだ。
「彼・・いえ、兄は、途中から母方の性である、鈴木を名乗っていました。
それは、家庭の事情でそうなったのですが、もう、お解かりですか?」
鈴木。その名前を聞いたとき、背筋がぞっとした。篠原達にも見てわかるのだろう、
きっと、今、私の顔は真っ青だ。心配そうに私を窺う篠原。
「大丈夫ですか?いえ、ここからが本題なのです。気を確かに持ってください。」
鈴木。そう、鈴木・・タカシといったか。
私に、その単純でありふれた名前を刻み付けたのは、彼という、異物だった。
鈴木タカシ。忘れもしない、名前。

47 :編集人:01/12/12 06:26
大丈夫ですか?ここからが本題なのです。
そう謂った彼女は、私の精神が安定するのを待つように、今さっき
ウェイトレスが置いていった紅茶をすすっている。
確かに、似ている。彼に。
私の心臓は、勢いを静めるどころか、尚、リズムを早めていた。
無意識に胸に手を当てていた私を、篠原が支える。
「先生?大丈夫?先生?」
見ると、篠原まで顔が青ざめている。
目の下に隈ができていた。あまり寝ていないのだろうか。
こんな時なのに、こんなに心臓が昂ぶっているのに、何故私は
そんな事を冷静に観察しているのだろう。落ち着け、落ち着け、
大丈夫だ。彼がここに居るわけじゃあない、落ち着け。と、
自分に言い聞かせる。篠原は、どうしたらいいのか解らないのか、
とにかく私を支えている。それはそうだ。私自身、どうしたらいいのか
わからない。このまま彼女の話をきくか?もう帰るか?このまま話を
きいてしまったら、再び彼と出会ってしまうかもしれない。
彼の妹である彼女は、冷めた様子で、窓の外を眺めている。
私の反応など、どうでもいいようだ。
こんな時、どうしてこうも冷静に人を観察できるんだろう。
これが私にとっての現実逃避の方法なのか。
篠原は、まだ私を支えてくれている。
もしもあの時、今の篠原のような人間がそばにいれば。
あの時。彼。心の中の、深い深いところ、私自身でさえ、手の
届かない様に、封印した記憶が、今、目の前に広がっている。
まるで、亡霊のような、彼の妹と共に。  

48 :編集人:01/12/12 06:26
いつだったろう。彼の存在に気がついたのは。
大学の講義中、ふと視線を感じ、その視線をたどると、決まって彼がいた。
そして、これも決まっていて、彼はすぐに視線をそらすのだ。
講義中だけではない。学食で友達とランチをしている時、帰りのバス、
そして、駅。時を重ねるにつれ、彼と私の共有する空間は、次第に多くなって
いった。最初は大して気にもしなかった。「ああ、またあの人だ。」と、
思う程度だったのだが、ある日、友人から聞いた彼の噂が私の背筋をこわばらせた
のだ。
それは、ぎらりと晴れ渡った、夏の日。友人たちと帰宅途中に買い物をしている
最中だったか。その私の友人の一人が、思い出したかのように私に言ったのだ。
「海子さあ、あいつの事知ってるの?」
あいつ?誰の事をいっているんだろう?と、言うほど他人に無関心だった私は、
「あいつって?誰?サトミの彼氏?」
「違うよお!あいつ、鈴木タカシ!ほらあ、よく、海子のこと見てる気味悪い
奴いるじゃん。」
「講義中とか?彼、鈴木って言うんだ。へえ?」
「へえ?じゃないよー!危ないって有名なんだよ?鈴木って!」
と、彼女は私に出来る限り近づけてそう謂ったのだ。
「なんで有名なのよ、でも結構カワイイ顔してんじゃない、彼。」
はー、何にも知らないのね、というように、彼女はかぶりを振って、こう続けた
「あー。顔はねー、でもね、彼、猟奇なのよ、猟奇!知らないの?
ほら、前によく、猫が変死体で見つかったじゃん。校内で。それってね、
彼がやってたらしいのよね。」
「ええー!でも、どうして彼だってわかったの?」
「それがねえ、その猫って、当時彼がつきまとってた女の子の飼い猫だったん
だってさあ。あ、その子って謂うのも同じ大学だよ。もうやめちゃったけど。」
「もしかして、彼が原因?」
「だろうねえ、それしか考えれないって。その子の友達だった人が言ってるの
聞いた事あるもの。」

49 :編集人:01/12/12 06:27
「うわー。それは猟奇ね。で、その事は学校側は知ってるの?」
「さあねえ、そこまでは知らないけど、彼がまだ残ってるっていう事は・・」
「あー、なるほどねえ。」
「あー、なるほどねえ。じゃあないわよーもー。だからあ、海子、その猟奇に
気に入られちゃったのかもしれないって事!気をつけなさいよー!」
「うん。ちょっと怖くなってきたな。ありがとう、気をつけますよー!」
そのときは、そう、おちゃらけていた。しかし、まさかこの後、あんな事になって
しまうなんて、予想もしていなかったのだ。
その後、彼は、急に大胆になったのだ。
今までは、単に遠くから見ているだけだったのだが、私を教室で確認するなり、
私の一つ前の席にすわってみたり、もっと嫌だったのは、真後ろに座られたとき
だ。もう、授業どころではない。彼は私の後ろで、なにやらぶつぶつ一人ごと
を謂っているのだった。それは、どうやら私の事を言っているようでもあって、
友人の話を聞いたせいか、私は酷くおびえさせられたものだ。

50 :編集人:01/12/12 06:27
そればかりではない。そればかりではないのだ。
彼の行動はどんどんエスカレートしていった。
ある日、学食でランチがてら、彼のことを友人に相談していた時の
事だ。
そこに突然、彼が現れ、あろうことか私達のいるテーブルに座りだ
したのだ。そこに、気の強い私の友人が、ついに怒った。
ドン!と、彼を突き飛ばし、
「あんたねえ、いい加減にしなよ!?海子に付きまとうの!
嫌がってるのわかんない?それでも三年生?よく上がれたわねえ?
今だって、あんたの事で話してたのよ!」
私は、高揚し荒ぶる彼女を止めながらも、彼にこう言った。
「鈴木君だっけ?彼女の言うとおり、私、嫌だから。やめて欲しい。」
すると、彼は、すっくと立ち上がり、そのまま立ち去ってしまったのだ。
そのとき、私や友人は、これだけ謂えば、流石の彼でも遠慮するんじゃ
ないかな?と、思っていた。
しかし、事件は起こってしまう。

51 :編集人:01/12/12 06:28
それから二週間ほどした頃だ。
彼を突き飛ばし、彼の私に対する振る舞いを諭した、私の友人が突然、
全く連絡が取れなくなった。
学校はおろか、携帯電話、彼女の自宅の電話にさえも出ない状況が丸三日続き、
もしかしたら、一人暮らしの彼女だ。急な病気か何かで、
家で倒れてしまっているのではないかという憶測の元、彼女宅を訪問したのだが、
ポストには新聞が山となっており、いくらインターホンを鳴らしても反応が無く、
管理人に事情を話し、鍵をあけてもらったが、部屋には彼女はいなかった。
私達は、一日に数回は連絡をとりあい、暇さえあれば互いの家に遊びに行ったり
していたので、それは、確実に彼女の身に異変が起きている事を表していた。
そこで私達は、もう一日、様子をみて、彼女に連絡がつかないようだったら、
警察に連絡しようということにして、その日は解散した。
その日の夜、私の部屋で残った友人と彼女の行方について、話していたときだった。
ワンコール。私の携帯電話に、彼女の自宅からの着信があったのだ。
しかし、何度掛けなおしても、ただただ、呼び出し音が虚しく響くだけ。
ともかく、いま、彼女は自宅にいて、私に何かを伝えようとしているということ
だけは確かだった。私達は急遽、彼女の部屋へ向かったのだ。

52 :編集人:01/12/12 06:28
なにやら嫌な予感を感じながらも、彼女の部屋のインターホンを押す。
・・・。
返事がない。
ドアのノブを回してみると、カチャリと軽い音をたてた。鍵はかかっていない。
中の様子を覗くように、ゆっくりとドアをあける。
部屋は真っ暗で、昼間来たときとはうって違えた様相だ。
私達は、顔を見合わせた。これでは中に入って見なければ、細部の
様子はわからない。
「管理人さん、鍵、しめてたよね?」
「うん、しめてたよ。」
「誰も居ないよね?」
「うん、いなそう。でも、じゃあさっきの電話は?」
「・・・・。」「・・・・・。」
二人して言葉をなくし、私は背筋を走る冷や汗を感じていた。
玄関についている、照明スイッチを、パチリと押す。
ぱあっと部屋中を暖色の明かりが照らし出した。

いた。
部屋の隅っこに毛布にくるまって、彼女、いや、彼女らしい人物が
座っていた。
「淳子?・・なの?」
「・・・・」
私の問いかけに対し、彼女らしきその人物は全く反応を示さない。
私がどうしたら良いか解らずにいると、突然、友人はその人物に
かけより、バっと被っている毛布を引っ剥がした。

悲惨だった。服はぼろぼろ、髪も乱れ、所々に土や、血のような
赤黒い塊が、付着していた。
その後、彼女は一切の私達の問いかけにも、ろくに答えられず、
ただただ、虚空の一点を見つめるばかりであった。

53 :編集人:01/12/12 06:29
彼女は、そのまま救急車で病院に担ぎ込まれ、結果、
精神病院へ入院した。
何がなんだかわからなかった。
ぼろぼろの服、それについた血の様な跡、醜く歪んだ彼女の顔。
何が彼女に起こったのか。そして、彼女がそんな状況で、私に
電話を掛けられたわけがない。では、一体誰が。
数日後、私達は彼女を見舞いにいったのだが、彼女はあの時と
なんら変わらず、問いかけに答える事も、私達と目をあわせることも
なく、ただ、目を見開いていた。
この事件には、一応は警察も介入したのだが、肝心の彼女の証言が
得られず、未だに事件は解決していない。但し、法的には、だ。

54 :編集人:01/12/12 06:29
彼女が保護された翌日、私達は警察に呼ばれた。
事情徴収というやつだ。「彼女になにか最近変わったことは?」「どういう関係?」
とか、テレビの三流サスペンスでよく耳にする、お決まりの台詞。
それはなにか、この事件を解決しようと言う、いわゆる「やる気」の感じられない
ものだった。
そのときに私達は、彼、鈴木タカシの事も警官に話したのだが、これはまともに
とりあってもらえなかったのか、或いは、捜査したのだが証拠がなかったのか、
彼は、事件後も学校に来ていた。しかし、事件前とは打って変わって、私には
全くの無関心を装っていた。
しかし、こんな事をするのは、彼以外考えられない。その後も何度か警察に、
彼を調べるように訴えたのだが、「調査はしている。君たちは心配しなくていい。
その彼についても、捜査対象にはなっている。これ以上は話す事は出来ない」
の、一点張りで、結局、彼が捕まった、犯人が捕まったという情報は今になっても
聞かない。
事件から一ヶ月ほどたった頃だったろうか、彼は相変わらず学校にはきていて、
これも事件後とかわらず、私には何の関心も示さなかった。
が、ある日、自宅近くの踏み切りで、踏み切りの空くのをまっている時だった。
なにやら、見覚えのある嫌な空気が私を、ぶわりと包んだ。
視線だ。あの目が再び私を観ているのを感じた。どうやら彼は正面、踏み切りの
向こう側にいるようだ。そこから私をみている。
ゆっくりと伏せていた頭をあげ、視線の方向を向くと、そこには、やはり、彼がいた。
カンカンカンカン・・。踏み切りの警報がやけにうるさい。
また始まってしまったのか?と思ったのだが、なにやら彼の様子がおかしい。
彼はいつもなら、私が視線をあわせると、すぐに目をそらすのだが、
一向に目を逸らさない。どころか、なんと彼は、その能面の様な顔を歪ませ、
にやりと笑ったのだ。そして、彼は声を出さず、唇を動かし始めた。
なんだ?私の視線は彼の口元に釘付けとなった。
オ・・・?・・レ・・ガ・・?・・ヤ?・・ヤッタ??・・・?
「俺がやった?」
ごーーー!がががー!
轟音を響かせ、目の前を列車が通過してゆく。
「俺がやった。」確かに彼の唇は、そう動いた。
殺してやる!一気に昂ぶった血液に、私は身を任せた。殺してやる。絶対許すものか。
列車が通り過ぎるのと同時に、私は飛び出した。
が、そこには、もう彼はいなかった。
それ以来、私は彼を見る事はなかったのだ。

55 :編集人:01/12/12 06:30
走っていた。私は誰かから逃げているのだ。
そうだそうだ!逃げなくては。彼に捕まってしまう。
彼?彼って誰・・?そうだ!鈴木!彼が私を追っているのだ。
真っ黒いビルが立ち並ぶ、人も車も全く居ない大通りを、
私は走る。誰か、誰か助けて。声がでない。
ひーひーひー。喉が声を欲しがるように鳴っている。
後ろを振り向く。誰も居ない。しかし、あの感覚、視線だけは
常に感じるのだ。何処だ?何処から私を見ている?
走る走る走る。真っ黒な世界の中、一つだけ真っ赤に輝くビルに
逃げ込む。その中にはとてつもなく大きな、真っ赤な階段だけ
があって、まるで、この階段だけで、このビルは出来ているようだ。
昇る、駆け上る。しかし、視線は付いて回るのだ。
何処までも何処までも、追いかけてくる。振り返り、下を見る。
!!なにやら真っ赤な液体が、凄い速さで階段を飲み込んでいっている。
逃げないと!出口を探さないと!
焦りに駆られて上を見る。延々と真っ赤だ。
出口は?出口は?出口は?迫る真っ赤な液体。
私は、息を大きく吸い込み、感情を一気に吐き出した。
「篠原君!助けて!」

56 :編集人:01/12/12 06:30
「篠原君!!」
・・・・・・。夢?もう、何処にも赤い階段はみあたらない。
何故か私には毛布が掛けられている。どうやら、ここは病院のようだ。
薄青いカーテンで仕切られた空間に、私は寝かされていた。
腕に点滴の針が刺さり、誰がやってくれたのか、ピンク色の
パジャマのような服に着替えさせられている。未だ速く鼓動する心臓を抑え、
ふう、と安堵をため息として吐き出し、
「夢だったんだ」と、口に出して、すこし笑ってみた。
それにしても、私はどうしてこんなところで寝かされているのだろうか。
ああ、そうか。牛田京子の話をきいて、そのまま失神でもしたのかな、私は。
篠原はどうしたのだろう。牛田は帰ったのだろうか。悪い事をしたかもしれない。
西日がカーテンを透かして、ベッドに落ちてくる。
私は急に外の空気を一杯に吸いたくなって、ざっとカーテンを開けた。
窓の外には大きなイチョウの木が、黄色く色づき、そこに真っ赤に熱した鋼鉄のような
太陽の光が、その色をさらに美しく透かし出していた。
一日が終わってしまうのだ。その、末期の姿はなんと美しいものか。
窓の取っ手に手をかけると、アルミサッシのひんやりとした感覚で、
初めて眠りからさめている事を実感できた。
でも、あれは夢じゃあなかったんだ。
牛田の兄が、あの鈴木だったなんて。未だに信じられないし、この話に真正面から
挑む勇気もわかない。
こんな事を篠原に言ったら、彼はなんというだろう。
らしくない、とでも謂って、元気付けてくれるのだろうか。
それとも、無理しない方がいい、と言って、こんな事は早く忘れろと言うだろうか。
篠原君。どうして今、隣にいてくれないのだ。今、貴方が隣にいたのなら・・。
きっと私はこう謂うだろう。
「大丈夫!牛田さんは帰ってしまったの?こうしてはいられないわ。」と。
そう強がって、私は貴方をリードしようとするでしょうね。
本当はこんなに私は弱いのに。
今、貴方は何処で何をして居るのだろう。
さっきまで真っ赤に燃えていた一日は、もう、半分かくれてしまっている。
窓を開けると、冷たい風が、あの日の様に私の髪を乱した。

※牛田さんの図  画:まりりん☆彡
http://w2.oekakies.com/p/marilynn/p.cgi

57 :編集人:01/12/12 06:31
   力

まるで、頭の中を冷たい水が大量に流れていくようだ。
線が送ってくる意思は、なにやら勝手に物体の方で処理してくれるようだし、
俺は、時が許すだけこうして知識の大河に身を静めている事ができる。
その、時なんてのも、考えるだけ馬鹿らしい。
なにせ時間は数千年分はあるのだ。次の候補者が現れるまで、俺はこうして、
ここで、線の意思を物体に通す媒体として、居続けなければ成らないのだから。
鈴木は、この世界に監禁された事に対して、もはや観念したようだった。
というより、案外にも居心地の良いこの世界と、その暮らし方に、
満足していた。現実社会の対人関係のうっとおしさや、金銭のしがらみ、
肉体がある事でどうしても発生する、だるい時間の流れ等といった
現実ならではと言う現象がここには無かったからだ。
勉強なぞしなくても、勝手に知識は手に入り、金なぞ稼がなくても、
何一つ苦労しない。肉体が無いという事は、腹も減らなければ、住む所
にも困らないわけだ。大体、鈴木は現世に未練のこれっぽっちも無かった。
気になる人、ほうって置けない仕事、そんなものは何も無かった。
彼も、一応は生活のために仕事や、住む所はもっていたが、それは
あくまで、仕方なくだった。喰うために仕事をし、雨風を凌ぐために
部屋を借りていただけで、これから何がしたいだとかという希望や、夢なんて
物は、全く持っていなかったのだ。
そんな鈴木にとって、この世界とは、それはそれは素晴らしい物だ。
ただただ、日が昇り、沈むでもなく、一日なんて謂う区切りもなく、
ひたすらに脳を知識の川に浸している。
それは鈴木の知的好奇心を満たすだけでなく、ある種の快感を伴い、
そのことだけで鈴木は満足だったのだ。
しかし、鈴木はそれのほかに、もう一つ楽しみを見つけてしまう。
それが悪夢の始まりだったのかもしれない。

58 :編集人:01/12/12 06:31
あるとき、我が日常、つまり、自分と物体がこなす、線と線の通訳作業を、
もっと詳しく観てみたくなった鈴木は、一度自分の意識と知識の倉庫を
つなぐ回線を閉じ、物体と自分の意思を完全に直結してみた。
それは、まるで体全体が巨大なゼリーにでもなったような気分がして、
しかも、自分の上も下も解らないと言う不思議な感覚であった。
線は、相変わらずそこらを高速で移動しながら、ひたすらに意思を送ってくる。
それを変換し、他の、送り主所望の線に、送り出す。それが我が仕事な
わけなのだが、それをぼんやりと眺めていた鈴木は、なんだか、自分に
もう一本、別の回路があるのに気がついた。
それはまるで、腕が三本になったような感じで、鈴木の意識のなかに漂っていた。
なんだこれは??鈴木は思った。今までは感じなかった存在だ。
自分にこんな回路が存在したのか。知らなかった。これも、もしかしたら物体に
とりこまれた時に出来たものだろうか。
なんだか、腕、というよりは、触覚や、触手といったほうがいいかもしれない。
それを物体に繋いでみると、なんと言うことか。線から送り込まれた意思を、
思うが侭の相手に送り出せるではないか。
鈴木は、あわてて触手を取り外した。
危なかった。これではこの世界が壊れてしまうかもしれない。

59 :編集人:01/12/12 06:32
鈴木にとって、その世界が壊れると言う事は、
また、あのうっとおしい現実に戻ってしまうという事を
表していた。
それだけではない、この世界とは、以前「彼」いや、
「侭」と名乗った自分の前任者の話では、この世界とは、
現実と直接重なっており、現実世界の、物質という枠を排除
した姿なのであった。
危ない危ない。俺は世界を壊してしまうところだった。
世界を、壊す?
久々に鈴木の中に、感情があふれだした。
「ハハハ」声が出たかわからないが、鈴木はここにきて、久々に
笑った。そして、こう思った。
いいじゃないか。壊したって。
あんな世界なのだから。いや、壊すのではない。混乱させてやろう。
どうせ、この世界はなくなり無しないだろうなあ。
無くなったところで、別に俺にとっては何の問題もない。
ようし、やってやる。
鈴木は、再び触覚を、物体に繋いだ。

最初の内は、線の意志を、送り主の意思とは関係の無い相手に贈り
楽しむといった、下らない事をして、楽しんでいた鈴木だったが、
ふとした瞬間に、触覚が、なんと線自体に繋がってしまったのである。
すると、どういうわけか、線と会話する事ができたのだ。
鈴木は、びっくりして、触手を手元に引き戻した。
これは一体どうなっている?線とも交信できるのか?
これは、面白い。
つまり、これは、現実をいきる者の意思の塊である、線に
対して話し掛ける事ができると言うことだ。
鈴木は再び、ハハハ、と笑った。
こんな機能があるとは。あいつは隠してやがったな?
面白い。この物体の機能をもってすれば、例えば俺の知っている
人間にアクセスする事だって恐らく簡単だ。
そう、思うが早いか、鈴木は物体に蓄積されている情報を検索
しはじめた。
・・・・。・・・・・。・・・。あった!!
お母さんだ。
鈴木は、その懐かしい、温かみすら伴う情報に向けて
するりと触覚を伸ばした。

60 :編集人:01/12/12 06:32
番外編

鈴木が触手の存在に気がつき、それを不意に線の意思に繋いで
しまった丁度その頃。

関西某所、繁華街の路地裏の、狭い階段を下りる人があった。
カツン カツン カツン
鼻につくかび臭さを、煙草の煙でごまかしながら、階段を
降りてゆく。行き止まりには重々しい、黒檀かなにかで
出来ていると思われる重厚なドア。
細部に悪魔のような彫刻が施され、その真ん中、ちょうど
彼の目線あたりには、山羊の頭を象ったレリーフが飾られており
その鼻先に、これまた重厚な、金属の輪が備え付けてある。
まるで、悪魔崇拝の黒ミサを思わせるそのドアを、彼は何の
ためらいもなく、ガチャリと開けた。
ギイイイイィ。重苦しいドアのきしむ音が、コンクリートの階段に
反響し、そのひっそりとした佇まいを、より強調した。

61 :編集人:01/12/12 06:32
その中は目が慣れていないと何も見えないのでは
ないかというくらいに、異様な薄暗さであり、
調度品も、黒やこげ茶色をベースとする、中世骨董品が主で、
その入り口にふさわしい室内となっていた。
点々とローソクの光がゆれ、真っ黒いソファには、数人の
男女がウィスキーのグラスを傾け、なにやらひそひそと
小声で囁きあい、くすくすと笑っている。
室内を見渡した彼は、その、着ていた真っ黒なコートを
入り口のコート掛けにかけると、カウンターの席に腰掛け、
バーテンに、ウォッカを注文し、ちらりと後ろのソファの
連中を盗み見た。
その中の一人が、なにやらテーブルの上で、指先を器用に
動かしている。その様子を、ローソクの光がゆらりと照らし、
その動きの怪しさを一層際立たせる。
取り巻きたちの見守る中、その男は、ローソクに照らし出された
その顔に、にやにやと笑みをうかべながら、
なにやら煙草の葉ような物を、テーブルに置かれた一枚の小さな
薄い紙切れのような物に、ゆっくり丁寧に筒状になるように
巻いてゆく。そして、その末端を、つーっとその舌で舐め、
そこを端から丁寧に、確認するかのように押してゆく。
そして、彼がそれを口にくわえると、取り巻きの、部下であろうか、
若い男がライターを取り出し、さっと火をつけた。

62 :編集人:01/12/12 06:33
彼は、その煙草のようなものを、すーっと深く吸い込み、ぐっと息をとめ、
それを隣に座っている、派手な女に渡した。
すると、やはりその女も、彼と同様にその煙草のような物を、深く吸い込み、
息をとめつつ、隣の者にわたす。
「は〜〜〜〜」と、最初に吸った男が、貯めていた煙を吐き出した。
そして、ぶるっと身体を震わせ、「きたきたよ〜」と、つぶやき、
取り巻きたちの笑いをさそっている。
間違いない。ガンジャだ。彼らは麻薬をやっている。
ガンジャとは、麻の葉を乾かした物で、麻薬の処方の一つとして、古くから
伝わる手法である。現在、各国はもちろん、ここ日本でも、それら麻薬は、
厳しく取り締まられており、それを所有するだけで犯罪である。

「どうぞ」と、カウンターに、ウォッカが置かれた。
男はびくっと振り返り、「ああ、ありがとう」といって、
その出されたウォッカを一息にのみほし、再びウォッカを注文し、
バーテンを見つめ、にやりと笑ってみせ、こう言った。
「すまねーちょっと荒れるわ」
はあ?という顔をするバーテンを尻目に、彼はかばんを開けた。
中には、黄金に輝くリボルバー式の、やけに銃身の長い、西部劇を思わせる
ような趣の拳銃をとりだした。
それを観たバーテンは、顔色を変えた。事態を察し、
客になにか警告をしようと、その口を大きくあけたそのときだった。
ズバン!静まり返った店内に、その黄金の銃が火を噴いた。。
そして彼は、「まーひっそりってんじゃーよくねー」
と言って、にやりわらって見せる。
と、同時に、先ほど麻薬をキメていた客の一人が、その彼に向かって発砲、
それはづどんと、彼の左胸に風穴をあけた。
彼は、胸の穴と、相手の顔を見比べ、「ほんとーにうつなってんだー」
と謂い、ぱたんとその場に倒れこんだ。
すると、何処からか黒服の男性が数人あらわれ、彼の遺体を店内奥へと
引きずってゆく。
地の跡も、綺麗にふき取られ、後には麻薬でラリパッパの男女が宴を楽しむ
奇声をあげるばかり。
バーテンは、何もなかったかのように、床に落ちたグラスを、ひょいと
拾い上げ、白い綺麗なナプキンでキュっキュと、それを磨き、思った。
「よく、あるんだよなあ。こーゆーの。もう辞めようかなあここ。」と。

こんなこと、地下世界では、日常茶飯事だ。
「きゃははは!」ラリパッパの奇声が、今日も木霊している。

63 :編集人:01/12/12 06:33
  心

篠原は、地元に向かう電車の中、少し震えていた。
生まれて初めて人が気絶するのを見たからであり、おまけに、その生まれて
初めての現象を、介抱したという事からくる興奮と緊張が、まだ冷めやらない
のだ。
自分の心臓に、振るえる手を当ててみる。ドンドンドン・・・。
ハードロックのドラムのように速く打たれる心臓、そして、それ以上の速さで
震える手。
そして、その手のひらに残る海子の肌の温もり。
篠原は、その手を暫く見つめたあと、震えを押さえ、その温もりを噛み締める
為、ぎゅっと手を握り締めた。
先生、大丈夫だろうか。
喫茶店で、牛田京子の兄あという鈴木と言う名を聞いた途端、
海子の顔色がみるみる真っ青に変わった。篠原の呼びかけは、店内に大きく
響き、閑散とした店内であったが、その僅かの客も、平穏をぶち壊した
海子たちの座るテーブルに目が釘付けになったほどだ。
しかし、その篠原の声も、海子は聞えているのかどうかと言った具合で、
じょじょに目の焦点は定まらなくなり、程なくして篠原の腕に倒れこんだのだ。
そのご、やけに落ち着き払った牛田が、救急車を呼び、店内はもちろん、
店の外には、歓楽街の人々が一斉に集まってしまい、ちょっとした騒ぎに
なってしまった。
その後、篠原は海子に付き添いながらも、しっかりと牛田の携帯電話番号を
聞き、後日連絡すると言って、そのまま救急車は二人を乗せて、
市内の総合病院へと向かったのだ。
診断の結果、単なるめまいだろうとの事だったが、一応、大事をとって
海子の目がさめるまでは、ベッドに寝かせておいてくれると、医者は言った。
そして、篠原は、海子のバッグのなかに、牛田の電話番号と、先に帰るという
メモだけ入れて、帰路に着いたのだ。
本当は、ずっと付き添って居たかった。先生の目がさめるまで、付き添って
居たかった。でも、自分は生徒だ。家族でも友達でも、ましてや恋人でもない。
一介の生徒なのだ。という、篠原の、この一線を超えてはいけないと言う、
なんというか、防衛本能なのか、或いはただの意地っ張りか。
いや、これが若さか。自分のテリトリー内での事なら、物凄い決断力と
行動力で、全てを片つけられるのに、一歩他人がからんでくると、
その一線をこえると、まるで奈落のそこまで続くような谷に、落ちていって
しまうんではないか。という危機感が働いてしまう。
若さは、未知に敏感であり、また、鈍感でもある。
篠原は、手のひらを一層強く、握り締め、帰ったら、先生に電話しよう、
と、思った。

64 :編集人:01/12/12 06:34
すーっと強くすって、暫く肺に貯める。
こうすると、ガンジャの効きが良くなるって、前の彼氏がいってたんだ。
全然日の当たらないこの部屋にいると、こういう悪い事をやっていても、
なんだか許されてしまう様な気がする。
麻薬常用者特有の、あのとろりと寝てしまいそうな瞼を、ゆっくりと閉じる。
そうして、彼の事を思い出してみる。
さらりとした髪に、しっかりとした型の良い背中、ひきしまって、それでいて
まだ幼さの残る目元。
篠原君って言ったっけ。あの先生にはもったいないや。
彼は、あの先生が好きなんだろうなあ。先生の方は、どうなんだろう。
まんざらじゃあ無い様な気もするけど、所詮は先公よね。
彼と先生の間には、社会っていうお化けが挟まってる。
あの先生は、それが怖くって手が出せないって感じかしら。
瞼の裏側に、形を持たない虹色が、ちらついている。
そのさらに向こう側を、虹の光を越えるように見据えると、彼の顔が浮かんで
来るんだ。そして、彼の抱える気絶した、だらしない女。
そこで私は、口元を歪ませて、笑うんだ。クククってね。
すー・・と吸って、肺に貯める。
いがらむ喉に、ドクターペッパーを流し込んで、わざと眉をしかめてみた。
ガンジャには、ドクターペッパーが一番合うんだよ。
そう謂っていたのも、前の彼氏だ。
あの人は、私が唯一、愛したかもしれない男だった。
身体も、心も弱くって、料理も出来ないし、靴下だって、私がきちんと
そろえてあげないと、片方づつ違う靴下ででかけちゃう。
私が居ないとダメな人だったんだ。いや、違う。ダメなのは私のほうだ。
あの人がいなくなって、ダメになっていったのは私だ。
畜生。あいつ。今さら兄貴面しやがって。
あの人を連れて行ってしまったのは、絶対兄だ。畜生。
あの日、曇っていて、洗濯物が、なかなか乾かなくって、いらいらしていて、
そんな日だった。あの人、急に、私の兄に会ったっていったんだっけ。
そりゃあ、私びっくりしたわよ。なにせ、行方不明なんだし、大体、なんで
その兄が、私の彼の事を知っているのか。色んな感情がごちゃ混ぜになって、
ひっくりかえりそうだった。でも、あの人、それについては、いくら私が
聞いたって、ちっともまともに答えてくれなくて、それから、一ヶ月くらい
してからだ。あの人は、消えてしまった。
朝、私が彼を起こして、朝食を作って、もう一度ベッドに起こしに行ったら、
居なかった。布団もそのまま。靴だって、たった一足の彼の靴だって、
そのまんま。あの人は、消えてしまったんだ。

65 :編集人:01/12/12 06:34
そりゃあ、方々探したわ。
公園だって、河川敷も自転車で探したし、コンビニにだって、
隣町の交番にまで探しに行って、結局、みつかんなかったんだけど。
畜生。絶対あいつなんだ。
あいつが、兄が、あの人を連れて行ったんだ。
お母さんだって、お父さんだって、あいつが殺した。
じゃあ、今度は私を殺せばいいじゃないと思ってた。
でも、あの人と出会って、私はすっかり兄のことなんか
忘れていたんだ。
あいつ、それを逆恨みしやがったんだ。
あの人が消えた翌々日、メールが届いていた。
差出人は不明だった。最初は、ウィルスかと思ったんだけど、
タイトルに、「グリーングリーン」って書いてあったんだ。
それで、もしかしたらって思ったんだ。
グリーングリーンって、兄がよく一人で歌ってた歌で、
それだけは、私よく覚えてる。あいつらしくない歌だった。
メールを開けてみると、やっぱり、兄からだった。
「おはよう。京子。元気かな?たかしだよ。
一昨日は、ごめんね。彼は、こっちに連れてきちゃった。
あいつは、お前にとって、良くないと思ってね。
それだけ。じゃあ。また。」
こうだ。
なんて理不尽な。私は勢い余って、パソコンのモニターを
ぶち割って、それでも足りずに、壁にイスをたたきつけたっけ。
あいつ、お母さんを殺したときも、お父さんを殺したときも、
そうだ。絶対あいつだ。私に嫌がらせをしていたのも、あいつ
以外、考えられない。そんな事を出来るのは、どっか訳わかんない
ところに消えたあいつだけだ。
「ちくしょう」今度は声に出してみる。
喉がガンジャでガラガラだ。あ、ヤバイ。
いつもより多く吸いすぎてしまった。視界がやけに暗い。
・・・。このまま、ねちゃうかな。夢で、篠原君とHしようか。
明日、あの先生に電話してみよう。
より掛かっていた壁を、背中は勝手に滑り降りてゆく。
ばたん。もう、このまま、起きなかったらいいのになあ。
そう、思って、彼女はゆっくり目をとじた。

66 :編集人:01/12/12 06:35

  リスト

例えるなら、それはトンネルだろうか。
壁には、古今東西の様々な画像がノイズ交じりで次々と、
入れ替わり映し出されている。
そして、音。
クラシックや、ジャズ、ロックといった音楽はもちろん、車の走る音、
犬の鳴き声、トランペットの響き、ガラスが割れる音など、
それこそ、この世の全ての音が、入れ替わり立ち代り鳴り響き、
そのトンネル内は、光と音との洪水のようである。
そんな中を、彼女は、ゆっくり歩いてゆく。
そこが、一体何処なのか。はっきりした事は、彼女にもわからない。
唯一つ、解っているのは、そこは、人類、いや、地球の記憶の倉庫だろう
という事だ。
それは、そこに溢れる画像や音が、少なくとも自分の記憶ではない。
つまり、自分が生きてきた中では、知り得ない情報ばかりであるという
事からの、彼女の判断によるものだが、
映し出される画像のなかには、現在、見ることの不可能な動物や、植物、
過去の時代の風景などもあり、さらに、音なのだが、その中には、
聞いた事も無い言語等も含まれるからである。
その、地球の記憶のなかを、彼女は、ゆっくりと歩く。
ただ、歩く。どうして自分が、こんなことが出来るのかなんてわからない。
ただ、目を瞑り、意識をその闇に集中させると、意識が「ここ」へ、
跳んでしまうのだ。
最初は、頭がいかれてしまったのではないかと思っていた。
しかし、誰に相談できようか。
第一、「ここ」に来れるからと言って、それ以上のことは、彼女には出来ない。
ただ、流れる地球の記憶を眺め、聞く。それだけだ。
この事を世界に公表すれば、歴史がひっくり返る。なんていう場面も、何度か
彼女はみたが、それを公表したところで、それを裏付ける何の証拠もないのだ。
あっという間に批判され、否定され、いや、むしろ、誰も聞いてくれないかも
しれない。所詮は、彼女のの意識だけの問題なのだから。
だから、彼女は、そのトンネルを、ただただ歩くだけ。
暇な時、目を瞑るだけで見れるエンターテイメントを楽しむだけ。

67 :編集人:01/12/12 06:35
しかし、最近何かがおかしい。
いつもはランダムにトンネル内に映し出される画像が、
延々と、ある一人の人物だけであったり、
同時に聞える音も、誰かと誰かの話声だったりするのだ。
そして、よく映し出されるあの、男性。
ある時なんかは、その無表情で、陰鬱な雰囲気の男性の画像で
トンネルが埋め尽くされ、何かを誰かがぶつぶつと独り言を
謂うような音が、延々聞こえていたりするのだ。
その彼らの画像や話、彼の一人ごとなどから、解ったことがある。
彼は、恐らく、私同様、「ここ」にアクセスする術をもち、
しかも、その知識を容易に引き出す事が出来、さらには、
「ここ」に記憶されている全ての人物の精神にまで、アクセス
可能らしいと謂うことと、
彼の名は、鈴木タカシといい、彼は、今までに自分の、母親と父親
を殺害、妹の恋人を、物質的に消し去っているらしいのだ。
しかも、彼自身、すでにこの世には、存在していないらしいのだ。
そして、彼は、自分が「ここ」を覗いているということを、まだ
知らない。まだ気づいていないだけか、それとも、あちらからは、
自分以外のアクセスを判別できないのか、それはわからないが、
ともかく、なにか、恐ろしいことが起きているのは確かだった。

68 :編集人:01/12/12 06:36
そんなある日、私はいつものように、目を瞑って意識を集中し、
記憶を眺めに行ったのだが、その日もトンネルは鈴木タカシで
埋め尽くされていた。
私は彼の新たな情報がわかるかもしれないと思って、
その声に、聞き耳をたて、その画像を見つめていたそのときだった。
偶然なのか、或いは、彼に気づかれたのか、なんと彼と目があって
しまったのだ。
驚いた私は、すぐさま意識を戻したのだが、その日以来、
トンネルには恐ろしくていけないでいる。

69 :編集人:01/12/12 06:36
彼、鈴木タカシの事を考えながら、私は夕食を作って、夫の帰り
を待っていた。時計を見ると、九時二十八分。
そろそろ夫が帰宅する時間だ。早く料理を仕上げなくてはと、
腕をまくった、そのとき、
「ただいまーかえったよー」
しまった。まだ夕食の準備ができていない。
「おかえり!ごめん、まだご飯できてないのよ」
夫は、少し残念そうな顔を作って、腹へった、と言って、
しかし、何か面白い事でもあったのか、にやにやと笑った。
「なに、ニヤニヤしてんのよー?」
「いやー今日さー、仕事場いや、お店でさー」
「なになに?」
夫が、こんな顔のときは、絶対にまた、お店で何かがあったときだ。
夫は、彼の友人とともに、アジア雑貨のお店を経営しているのだ。
その、友達というのが、曲者なのである。

70 :編集人:01/12/12 06:37
「いやーねー、今日また、関西が店でおかしくなって、
お客さん、にげちゃってさー」
その様子を想像しただけで、私は笑いがとまらない。
関西とは、おかしな名前だが、彼が以前、我が家へ来た時も
いきなり叫びだし、そりゃあもう大変だったのだ。
夫は、ニヤニヤと笑いながら、彼の話を続けている。
私も、それにあわせ、うん、うんと、うなづく。
しかし、こんな夫にさえ、私は、あのことを話した事が無い。
信頼していないわけじゃあない。ただ、あまりに突飛な事なので
彼の仕事にちょっとでも支障がでるのが怖いのだ。
本当に、私はそれだけが怖い。
「今日の新聞は?」いけない。新聞をとるのを忘れていた。
「今とってくるから、お鍋みててね」
私は、ポストを見るのが好きだ。といっても、別に郵便物が好き
なわけじゃない。ポストに書かれている、名前を見るのが好き
なのだ。
ポストには、真新しい真っ白いシールに黒いマジックで
しっかりと、こう書かれている。

佳麗 喜美男(かれいきみお)と、その下に、
佳麗 リスト
そう。私達は新婚なのだ。
そして、私は日系アメリカ人で、夫とは国際結婚だ。私が、
海外雑貨の輸入代理店で働いていたときに、彼と知り合ったのだ。
がちゃん。銀色に光るポストをあけ、新聞をとる。
世界はまた、あれ出しているらしい。
私は、もう一度ポストの表札を確認して、玄関へと向かった。

71 :編集人:01/12/12 06:37
暴走

くくく。空気の無い空間に乾いた、しかしどこか湿った卑屈な笑い声が
響く。
触手を手に入れてからと言うもの、鈴木は、現世の恨みつらみを晴らすかの
如く、それはもう手当たり次第に意思を狂わせた。
最初にアクセスしたのは、母親だった。
しかし、そのときは、母の精神を害そうとなんて思ってもいなかった。
ただ、懐かしい乳液のような匂いと、あの36,5度の体温が懐かしくて、
そっと手を触れるだけのつもりだったのだ。
しかし、母は鈴木のアクセスに驚愕し、取り乱し、母を取り巻く全てを
狂わせて、結句、自殺してしまった。
鈴木も、それを止める事も出来ず、ただ、あたふたするばかりで、
母の自殺を止めようと意思を送るのだが、その意思ですら、彼女を狂わす
ばかり。そして、その最後の瞬間、聞いてしまったのだ。
母の、最期の言葉であり、おそらく積年の本音だったのだろう、
彼女は、こう、心の中で叫んだ。
「もう、私を困らせないで。つらかったのよ、づっと」
何もいえなかった。鈴木は、何も言うことができない鈴木は、
ただ、その様を見守るっていたのだ。
そして、笑った。腹を抱えるほどに、涙を流すほどに笑っていた。
優しかった母。誰とも話さない自分に、唯一優しかった母。
鈴木も、彼女だけには、心を開いて何でも話した。
学校でいじめられて、泣いて帰った日、母は、何にもいわないで、
林檎をむいてくれて。
父と母が酷い喧嘩をした日、台所の隅で誰にもわからないように
泣いていた母は、自分ををぎゅっと抱きしめてくれた。
「あなたは、お父さんのようになってはダメ。人の心を知りなさいね」
母は、そう謂って、一層強く鈴木を抱かしめた。
しかし、その言葉にはそぐえなかったのだ。
人の心なんてわからない。
母の、唯一信頼していた母の本音さえ、知り得なかったのだから。
鈴木は、ひとしきり笑って、涙を押さえるように意識をぐっとこわばらせ、
やってやる。と思っていた。
何もかもぶち壊しだ。この汚くてその底も見えない糞だめなんて、
この俺がこわしてやる。そう、心に誓ったのだ。

72 :編集人:01/12/12 06:38
その後、鈴木は、まづ父を狂わせ、妹である京子に
嫌がらせをして、さらにその彼氏の肉体を消し去り、
その精神を、こちら側に幽閉したのだ。
幽閉と言っても、それはむしろ、データの圧縮凍結の
ようなもので、彼自身に自覚はない。
彼の精神は、圧縮され、物体内部のデータバンクに収納
されているのだ。
鈴木は、時折彼の変わり果てた姿や、京子の苦しむ姿を
見ては、こみ上げる破壊衝動を押さえていたのだ。
お前らを潰すのは最後だ。これから、俺がぼろぼろに
破壊した後の混沌の地獄のような世界で、お前らは
いけてゆくんだ。
そう、自分に言い聞かせ、彼らを破壊する衝動を
鈴木はおさえている。
さて、次は、何をしようか。

73 :編集人:01/12/12 06:40

以下、連載継続!
関西先生の小説が読めるのはなんでも板だけ!

なお、編集するに当たり読者の皆様の声を
割愛いたしましたことをお詫び申し上げます。
さらに、>10において章タイトル「彦原海子」が抜けてしまったことを
心よりお詫び申し上げます。。。

74 :編集人:01/12/12 06:41
正直、疲れた。。。
好きでやりましたが二度とはやりたくないので、
関西先生、読者の皆様、
私も目を光らせて参りますが
どうぞよろしくお願い致します。

75 :関西☆ ◆w66.NORA :01/12/12 15:23
・・・・・・・・・・・・・。
う・・・おおおおおおおおおおお・・。
誰だか知らんが編集人・・・・・・・・・。
小一時間かけてこんな・・・・。
ありがとう。まじにありがとう。。。

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